志村貴子先生。
『青い花』、『放浪息子』など、思春期の甘酸っぱい恋愛模様を描く、青春群像劇の名手です。
この2本のアニメは自分も特に大好きで、見るたびに懐かしさや後悔、様々な想いが心を駆け巡ります。
そんな志村貴子先生作品の空気感や甘酸っぱさがひしひしと感じられるオムニバス映画『どうにかなる日々』について語っていきたいと思います。
『どうにかなる日々』とは
あらすじ
誰かを想う日常は、
ときに甘くて、ときに痛い。
そんな、なるようにしか
ならない日々も
きっと、いつか。
青春群像劇の名手・志村貴子(「放浪息子」「青い花」)による、様々な恋模様を淡く繊細に描いたオムニバス漫画「どうにかなる日々」を、詩的な映像・音楽演出に定評のある佐藤卓哉監督(「あさがおと加瀬さん。」)がアニメ化。
元恋人の結婚式、
男子校の先生と生徒、
心と身体の変化を迎える思春期の幼馴染。誰が相手でも、どんな形でも、全ての恋と生き方には同等の価値がある。
そして、不器用に誰かを想った日々は、きっといつか愛しい思い出になる。
そんな“誰かの恋”を優しく見守り、温かく描くオムニバスショートストーリー集。
スタッフ
原作:志村貴子「どうにかなる日々」/太田出版
監督:佐藤卓哉『苺ましまろ』『RErideD-刻越えのデリダ-』『好きっていいなよ。』
演出:有冨興二
脚本:佐藤卓哉、井出安軌、冨田頼子
キャラクターデザイン:佐川遥
色彩設計:中村祐栄(BeLoop)
美術コンセプト:伊藤豊
美術監督:齋藤幸洋
撮影監督:高津純平
編集:長谷川舞(editz)
アニメーション制作:ライデンフィルム京都スタジオ
音楽:クリープハイプ
主題歌「モノマネ」/ クリープハイプ
配給:ポニーキャニオン
キャスト
えっちゃん:花澤香菜
あやさん:小松未可子
澤先生:櫻井孝宏
矢ケ崎くん:山下誠一郎
しんちゃん:木戸衣吹
みかちゃん:石原夏織
小夜子:ファイルーズあい
百合:早見沙織
田辺くん:島﨑信長
ヨリコさん:田村睦心
しんちゃん父:天崎滉平
しんちゃん母:白石涼子
ピックアップポイント
1本目「えっちゃんとあやさん」"Happy"女性同士の恋愛
本作は4本のショートストーリーで紡がれる、オムニバス作品。
1本目で描かれたのは女性同士の恋愛。
百合ちゃんの結婚式の日、高校生の頃百合ちゃんと付き合っていたえっちゃんと、大学生の頃百合ちゃんと付き合っていたあやさんが結婚式のトイレで偶然出会います。
何故か惹かれ合った二人は、映画を見たり、お互いの家に遊びに行って肉体関係を持ったり。
百合ちゃんに対する愚痴をこぼしつつ、二人は二人だけの世界で、幸せに暮らしていました。
えっちゃんもあやさんも、百合ちゃんに対する想いはまだまだ残っているのに、百合ちゃんはさっさと異性と結婚してしまった。
それを恨んでいるというようなことはないのですが、百合ちゃんの合理的で、世俗的な判断は、えっちゃんとあやさんと非常に対照的。
それでも本当に幸せそうに日々を過ごす二人は非常に微笑ましく、幸せの形の多様性を改めて実感しました。
2本目「澤先生と矢ヶ崎くん」"Go"男性同士の恋愛
2本目で描かれたのは男性同士の恋愛。
高校3年生の卒業式の日、澤先生は職員室で受け持っていた生徒・矢ヶ崎くんから、
「先生、首、きれいですね。」
そして、好きだと告白されます。
矢ヶ崎くんはそのまま去っていき、特にその後も音沙汰なし。
澤先生は悶々とした日々を過ごしますが、特に何も答えは出ず。
その翌年も、さらにその翌年も、毎年卒業式はやってきて、澤先生は多くの生徒を見送るのでした。
自分も男子校出身なので、なんとなく澤先生の気持ちも矢ヶ崎くんの気持ちも伝わってきました。
1本目と比較して、特に関係性が発展しないのは非常にリアル。
女性ではないので女性の気持ちはわかりませんが、おそらく女性から女性への告白・好意より、男性から男性への告白・好意のほうが非常にハードルが高いです。
昨日まで当たり前だった関係性が、告白によって壊れてしまう可能性。
嫌われたり、気持ち悪がられたりする可能性。
そんな大きなリスクを背負ってでも、澤先生に想いを伝えた矢ヶ崎くん。
職員室のさりげない、シチュエーションも何もあったもんじゃない告白でしたが、卒業式の日まできっと悩み続けていたその想いを非常に愛おしく感じました。
3本目「しんちゃんと小夜子」"Lucky"AV女優の従姉と小学生男子
小学校の夏休み。
幼馴染のみかちゃんとしんちゃんは、一緒に夏休みの宿題中。
押し入れには、AV女優という仕事のせいで勘当され家出してきた従姉・小夜子が。
まだまだ初々しいみかちゃんとしんちゃんに対し、
「早くしちゃいなよ。」
と煽ってくる小夜子。
しんちゃんは性的なことに免疫がなく、小夜子と同じ部屋で寝ることになりつつも、小夜子を押し入れで寝させたり、逆に自分が押し入れで寝たり、一緒に寝ることを拒否し続けました。
そしてある時みかちゃんとしんちゃんは、興味本位から小夜子が出演するAVを見てしまい非常に気まずい空気に。
その後、みかちゃんの家に行ったとき、みかちゃんが胸を見せてきて、ことが発展するかと思いきや、しんちゃんはそれも拒否。
結局小夜子も家に戻り、寂しい気持ちはありつつも、またありふれた日常が戻ってきたのでした。
小学生男子と小学生女子では、性に関する知識や欲求に大きな差があるのは自分も強く感じていましたし、小学生男子のピュアな雰囲気、いとこ同士の恋愛という少し難しい問題、どれも見ていて非常に悩ましいなあと感じました。
それでも、そういった難しい内容よりも素直にしんちゃんの立場が羨ましすぎて、素直な感情で映画を見ていたと思います。
AV女優の美人で胸の大きい従姉に、胸を押し付けられたり、小夜子が入って汗だくになって、むせ返るほど匂いのするであろう押し入れでしんちゃんが寝るという表現は間接的ではありますが、非常に扇情的でした。
しんちゃんが朝起きて2回もパンツを洗っていたのにも納得です。
4本目「みかちゃんとしんちゃん」"days"中学生男女のリアルな恋愛模様
3本目で小学生だった二人が中学生に。
未だに一緒に登下校をする二人ですが、思春期ということもあってか、しんちゃんの家に寄ることは無くなっていました。
小夜子が出演したAVはしんちゃんではなくみかちゃんが所持。
しんちゃんへの想いが募るみかちゃんは、そのAVを見て一人自慰行為に耽るのでした。
ある日、小夜子が結婚したとの連絡が。
動揺するしんちゃんを見たみかちゃんは、まだしんちゃんの想いが小夜子にあるのかと悩み、もどかしい想いをAVを破壊することで晴らします。
そして文化祭のベストカップルに選ばれるみかちゃんとしんちゃん。
先生には内緒で、と渡されたコンドームを、
"風船に見立てて膨らませて遊ぶというようなことはしなかった"
というモノローグで物語は終わりを迎えます。
思春期のもどかしい距離感が魅力的な4本目。
小夜子が出演したAVで自慰行為をすることも、そのAVを破壊することも、全く理にかなってはいないのですが、感情的に凄く理解できる不思議な感覚があります。
自分も中学生時代の恋愛を色々思い出して、懐かしさや後悔、色々な感情が湧き上がってきました。
間接的な表現で終わる締め方も美しく、余韻をたっぷりと味わうことが出来ました。
「Happy Go Lucky Days」=『どうにかなる日々』を通して
1本1本が魅力的な時間ではありましたが、この4本を繋げて一作品の映画にすることで、より作品全体の空気感が身近なものに感じられました。
社会人、大学生、高校生、中学生、小学生、男性同士、女性同士、異性間、多様な価値観での恋愛はそれぞれ独特の味わいを持っており、みんな違ってみんないい。
肉体関係を持ってもいいし、想いを告げるだけでもいい。
人が人を好きになるということがどういうことなのか、世界のどこでも起きていそうな、過剰な演出のないありふれた日々の描写を通して、しみじみと想いを馳せられる素晴らしい作品でした。
主題歌「モノマネ」/ クリープハイプ
歌うのは『境界のRINNE』の「アイニー」、『亜人』の「校庭の隅に二人、風が吹いて今なら言えるかな」でおなじみ、クリープハイプさん。
作詞・作曲・編曲は同じくクリープハイプのボーカル・ギターである尾崎世界観さんが担当しています。
本楽曲はクリープハイプさんの楽曲、「ボーイズENDガールズ」の続編の曲となっています。
いつもあなたと一緒にいたいと歌った「ボーイズENDガールズ」ですが、この楽曲ではそれはただの"モノマネ"でしかないと歌っています。
付き合い始めた頃は同じものを見て、同じものを好きになって、それを幸せと感じるかもしれない。
でも結局、一人一人好きなものは違うし、思っていることも違う。
それを無理やり同じにするのはただの"モノマネ"でしかない。
恋愛をしている多くの人がきっとドキッとさせられる歌詞です。
多様な恋愛の価値観を描く本作には、まさにベストマッチ。
恋愛とはこうでなくてはならないという強迫観念から抜け出して、二人が過ごすありふれた日々をそのまま受け止められたらそれが一番幸せかもしれない。
そんな素敵な気持ちが詰まった、本作の余韻にぴったり合う素晴らしいエンディングテーマでした。
おわりに
54分しかない作品で、4本が連なるオムニバス作品。
果たして登場人物に感情移入が出来るのかと、上映前は少し不安に思っていましたが杞憂に終わりました。
逆に54分と短く、わかりやすい作品だからこそ多くの人に気軽に見て欲しいですね。
自分はもともとなんでもありな恋愛観をしていますが、凝り固まった恋愛観をお持ちの方は、この作品を見て今まで気づけなかった何かに気付くことが出来るかもしれません。
この映画のおかげで考え方が変わった!
ファイルーズあいさんの大人な演技がたまらなかった!
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また次の記事で!