歌人啄木、謎を詠む。
詩集『あこがれ』や、歌集『一握の砂』など、日本を代表する歌人である石川啄木が謎を解いていく本作、『啄木鳥探偵處』。
26歳という若さで亡くなった壮絶な半生をモチーフにしつつ、もし石川啄木が探偵に興味を持っていたらという設定で描かれた本作の魅力を語っていこうと思います。
『啄木鳥探偵處』とは
©2020伊井圭・東京創元社/「啄木鳥探偵處」製作委員会
あらすじ
石川啄木×金田一京助、
史上最も"文学的"探偵、ここに誕生!
時は、明治の末――
金欠に苦しむ天才歌人・石川啄木は、とある殺人事件をきっかけに下宿で探偵稼業を始めることに。
その名も、「啄木鳥探偵處」。
「浅草十二階の幽霊騒動」「雪降る夜に街を徘徊する人食い人形」……
奇怪な事件に続々と首を突っ込む啄木の助手を務めるのは、同郷の先輩・金田一京助。
文士仲間の野村胡堂、吉井勇、萩原朔太郎、若山牧水らを巻き込んで、
人たらしの天才歌人・石川啄木が文明開化の東京を駆け抜ける!
スタッフ
原作:伊井圭(創元推理文庫)
総監督:江崎慎平『ガンスリンガー ストラトス -THE ANIMATION-』『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』『はねバド!』
監督:牧野友映
シリーズ構成:岸本卓『うさぎドロップ』『僕だけがいない街』『イジらないで、長瀞さん』
キャラクター原案:佐木郁
キャラクターデザイン:原修一『シュヴァルツェスマーケン』
メインアニメーター・看板デザイン:橋本尚典『はねバド!』
プロップデザイン:荒木一成
美術監督:伊藤友沙
美術設定:平澤晃弘
色彩設計:辻田邦夫
撮影監督:野澤圭輔
編集:長谷川舞
CGディレクター:前島亮太
音響監督:清水洋史
音楽:高田龍一、高橋邦幸
音楽制作:MONACA
アニメーション制作:ライデンフィルム
制作:東北新社、ライデンフィルム
製作:「啄木鳥探偵處」製作委員会(東北新社、MUSE、クランチロール、TOKYO MX、ビーエスフジ、マーベラス、ハピネット)
キャスト
石川 啄木:浅沼晋太郎
金田一 京助:櫻井孝宏
野村胡堂:津田健次郎
平井太郎:小野賢章
吉井勇:斉藤壮馬
萩原朔太郎:梅原裕一郎
若山牧水:古川慎
芥川龍之介:林幸矢
加世:大和田仁美
おすすめポイント
『文豪ストレイドッグス』や『文豪とアルケミスト』などの影響もあって、文豪は異能力を使うのが当然となった2020年。
え、文豪なのに異能力使わないの!?
そうなんです、文豪なのに異能力を使わないで、浅草で起きる様々な事件を解決しながら文豪たちのその生きざまを描くのが本作の魅力です。
そんな『啄木鳥探偵處』の素晴らしかったところを以下の3つのポイントからお話していきたいと思います。
・1話完結型の見やすさと、深掘りされていくキャラクター達
・文豪や知識人などが大集合、偉人たちのリアル
・時代、世界観にぴったりのおしゃれな主題歌
1話完結型の見やすさと、深掘りされていくキャラクター達
『啄木鳥探偵處』の事件発生から解決までは基本的に1話の中で完結します。
ある時は自分に容疑がかけられてしまった殺人事件の真犯人を推理し、見事特定するまでのお話。
またある時は、親友の金田一京助とお互いにお前が犯人だ!と言い合う、仲が良いのか悪いのかわからない事件の話。
萩原朔太郎や野村胡堂、夏目漱石や芥川龍之介、後の江戸川乱歩こと平井太郎など文士たちが推理をしあうお話。
謎の幽霊騒動に謎のダイイングメッセージ、オカルティックなのにリアリティあふれる解決を迎えるお話。
1つ1つのお話が非常に特徴的で、今までのミステリーものではないような異色な事件をたくさん楽しむことが出来ました。
©2020伊井圭・東京創元社/「啄木鳥探偵處」製作委員会
そんな1話1話の事件の中で、変化していく啄木の心境や親友である金田一京助との関係性。
26歳という若さで亡くなってしまう、啄木のどんどんとやつれていく姿。
呼吸すれば 胸の中にて 鳴る音あり
凩よりも さびしきその音
という啄木の有名な一首が読まれるまでの過程をアニメで感じることが出来ます。
自分も石川啄木についてそこまで詳しいわけではありませんが、フィクションとノンフィクションが上手く混ざった構成になっています。
啄木がどんな人生を送ったのか、興味を持つきっかけにしつつ、内容自体も楽しめる作品でした。
文豪や知識人などが大集合、偉人たちのリアル
前項でも少し出てきましたが、石川啄木以外にも啄木の親友の金田一京助を筆頭に色々なキャラクターが出演します。
アイヌ語研究の本格的創始者として知られる金田一京助。
『銭形平次捕物控』や、音楽評論家「あらえびす」で知られる野村胡堂。
明智小五郎ものを筆頭に数々の推理小説を世に送り出してきた江戸川乱歩こと、平井太郎。
スバル派歌人・劇作家として知られる、吉井勇。
『月に吠える』などで有名な「日本近代詩の父」、萩原朔太郎。
『若山牧水全集』や紀行文で有名な、啄木の臨終にも立ち会った若山牧水。
『舞姫』や『高瀬舟』など文学はもちろん、医学おいても多くの実績を残した森鴎外。
『吾輩は猫である』や『坊ちゃん』など日本を代表する小説家、夏目漱石。
言わずと知れた明治の大小説家、どんな文豪ものでも主人公やラスボスを張る芥川龍之介。
©2020伊井圭・東京創元社/「啄木鳥探偵處」製作委員会
あまりにも有名すぎる歴史上の人物が一堂に会します。
しかも実際に彼らはちゃんと親交関係があり、『啄木鳥探偵處』で描かれたような日々を送っていたかどうかはわかりませんが、同じ店でお酒を交わすようなことはあったのかもしれませんね。
友達付き合いをしている一人一人が歴史上でも著名な人物ってあまりに豪華すぎる。
文明開化を迎えた東京でそれぞれ互いに影響を受け合って素晴らしい作品を生み出していく文士たちの生活を感じることが出来ます。
ちなみに、石川啄木と金田一京助以外のメンバーはアニメ版オリジナルキャラクターということで原作には出てこないらしいです。
かなり意外な事実ですが、二人の関係性をより濃厚に描くためにも周りのキャラクターが非常に重要な役割を果たしていました。
アニメ化に伴って追加された素晴らしいオリジナル要素です。
時代、世界観にぴったりのおしゃれな主題歌
文明開化と共に、音楽も広く諸外国のものを取り入れ始めた明治時代。
そんな時代、世界観にぴったりな主題歌が本作では使われています。
OPテーマは、
「本日モ誠ニ晴天也」/ 古川慎(作詞:真崎エリカ 作曲・編曲:山本恭平(Arte Refact))
古川 慎 / 3rdシングル「本日モ誠ニ晴天也」-MUSIC VIDEO- Short Ver.(TVアニメ『啄木鳥探偵處』OP主題歌)
多くのアニメソング、ゲームソングの歌詞をランティスから出してきた真崎エリカさんとArte Refact期待の新人山本恭平さんのタッグで送るこちらの楽曲。
ハイカラで妖艶なジャズが非常に魅力的ですね。
古川慎さんのちょっとねっとりした歌い方と特徴的なビブラートもぴったりです。
「辻馬車」、「文明開化」、「浪漫」などこの時代を象徴とするようなワードもふんだんに使われています。
劇中でも良く出てきた「牛鍋」、「酒蒸し」など啄木の生活を思い起こさせるような単語選び。
「啄木鳥」や、『一握の砂』を想起させる「砂粒ほどの人生さえ」という歌詞も使われており、『啄木鳥探偵處』に非常に寄り添った歌詞が素晴らしいです。
さすが真崎エリカさんだなあと思わず感服してしまいます。
EDテーマは、
「ゴンドラの唄」/ NOW ON AIR(作詞:吉井勇 作曲:中山晋平 編曲:伊藤賢)
NOW ON AIR 「ゴンドラの唄」Music Video(YouTube Ver.)
『啄木鳥探偵處』本編にも出てくる吉井勇さんが手掛けた大正時代を代表する名曲「ゴンドラの唄」。
「命短し恋せよ乙女」というフレーズは非常に有名で、様々な楽曲や作品でも使われており、知っている方も多いのではないでしょうか。
作曲の中山晋平さんも「シャボン玉」、「てるてる坊主」、「あめふり」など日本人なら知らない人のいない童謡をはじめとして、様々な楽曲を生み出してきた日本を代表する作曲家です。
そんな名曲「ゴンドラの唄」をアニソンシーンの内外を問わず活躍するギタリスト、伊藤賢さんが大胆にアレンジしたこちらの楽曲。
歌うのは劇場アニメ『きみの声をとどけたい』のために「キミコエ・オーディション」で選ばれた6人で結成されるNOW ON AIR。
序盤のしっとりとした雰囲気から、ロック調への大胆な楽曲の変化に合わせてしっかりとした歌い分けが素晴らしいです。
『啄木鳥探偵處』の話の中でもシリアスなお話では、ロック調へ移行せず、しっとりとしたまま89秒を終える回もあり、作品にぴったりなEDテーマでした。
配信情報
dアニメストア、Amazonプライム、FOD、Hulu、U-NEXT、AbemaTVなど各種見放題サービスにて絶賛配信中です。
文豪モノが好きな方はもちろん、探偵モノが好きな人、文明開化のこの時代、世界観が好きな人にもおすすめできる作品です。