文豪と言えばかっこいい戦闘。
文豪が本だけ書いている時代はとうの昔に終わりました。
もはや文豪ではなく、剣豪ではないのかというツッコミは置いておいて、
文学を守るために奮闘する文豪たちの物語を描いた『文豪とアルケミスト〜審判ノ歯車〜』。
名作文学を題材にしながら、キャラクターの心理描写が見事に描かれた本作について語っていきたいと思います。
『文豪とアルケミスト』とは
©2016 EXNOA LLC/文豪とアルケミスト製作委員会・テレビ東京
あらすじ
文豪により綴られてきた数多の本。
独創的な世界観や感情揺さぶる物語が記されたそれは文学として人々の心を彩り、
世界を豊かにしてきた。しかし、そんな本を黒く染める異形のモノ達が現れる。
それは、文学に対する負の感情から生まれた“侵蝕者”と呼ばれる存在だった。
本を侵し、この世界から消し去ることを目的とする侵蝕者に対抗できるのは“アルケミスト”の力で転生を果たした文豪達のみ。
文豪は侵蝕された本に潜り、侵蝕者を討ち果たすことで本を救う。
全てはこの世界の文学を守るため。
これは、魂を込めて作品を創ってきた者達が綴る、新たなる文豪譚——
スタッフ
原作:DMM GAMES
世界観監修:イシイジロウ『ブブキ・ブランキ』
監督:渡部 穏寛『東京喰種:re』『MIX MEISEI STORY』
シリーズ構成・脚本:熊谷 純『ハマトラ』『Persona4 the Golden ANIMATION』
キャラクターデザイン・総作画監督:中嶋 敦子『らんま1/2』『薄桜鬼シリーズ』『サンリオ男子』
美術監督:緒続 学
色彩設計:西 栄子
撮影監督:千葉 秀樹
編集:本田 優規
音楽:坂本英城『殺戮の天使』『モンスターストライク』
音響監督:えびな やすのり
アニメーション制作:オー・エル・エム
キャスト
芥川 龍之介:諏訪部 順一
太宰 治:中村 悠一
中原 中也:柿原 徹也
島崎 藤村:立花 慎之介
織田 作之助:小野坂 昌也
徳田 秋声:渡辺 拓海
坂口 安吾:杉田 智和
萩原 朔太郎:野島 健児
室生 犀星:逢坂 良太
志賀 直哉:前野 智昭
武者小路 実篤:KENN
菊池 寛:三木 眞一郎
久米 正雄:吉野 裕行
佐藤 春夫:泰 勇気
谷崎 潤一郎:岡本 信彦
堀 辰雄:髙橋 孝治
ネコ:大河 元気
檀 一雄:小野 友樹
おすすめポイント
『文豪ストレイドッグス』や、最近だと『啄木鳥探偵處』など多くのファンに愛される文豪モノ。
DMM GAMESの原作『文豪とアルケミスト』は女性向けゲームとしてはDMM内No.1の人気を誇ります。
そんなファンの心をがっちりと掴んだ本作の魅力を以下の3つのポイントから紹介しようと思います。
・個性豊かでかっこいい、きっと推しが見つかる17人の文豪たち
・名作を題材にしたわかりやすいストーリーと描かれる文学の価値
・あの浦島坂田船と南條愛乃さんが歌うぴったりな主題歌
個性豊かでかっこいい、きっと推しが見つかる17人の文豪たち
原作ゲームでは60人を超える文豪たちとのお話が楽しめる『文豪とアルケミスト』。
流石にアニメで60人を扱うのは難しいということもあり、
アニメでは17人の文豪たち+1匹のネコが活躍します。
©2016 EXNOA LLC/文豪とアルケミスト製作委員会・テレビ東京
不勉強なものでこの中の1/4すら読んでいなくて申し訳ないなあと思うばかり。
誰もが知っている文豪から、ちょっとマイナーな文豪まで幅広い文豪の物語を味わうことが出来ます。
他の文豪作品と比べてもここまで多くの文豪が出てくる作品はないのではないでしょうか。
©2016 EXNOA LLC/文豪とアルケミスト製作委員会・テレビ東京
出演声優も非常に豪華。
太宰治と坂口安吾を演じるみんな大好き中村悠一さん&杉田智和さんのペア。
孤高の気高さを感じさせる芥川龍之介を演じる諏訪部順一さん。
他にも柿原徹也さん、立花 慎之介さん、小野坂 昌也さん、渡辺 拓海さんなどなど。
主要メンバーはもちろんのこと、1人1人の個性がしっかり描かれた作品ですのであなたの推し文豪がきっと見つかるはずです。
名作を題材にしたわかりやすいストーリーと描かれる文学の価値
1話1話、全てのお話が文学作品を題材としています。
第1話は「走れメロス」
第2・3話は「桜の森の満開の下」
第4・5話は「月に吠える」
第6・7話は「地獄変」
第8・9話は「人間失格」
第10話は「藪の中」
第11話は「恩讐の彼方に」
第12・13話は「歯車」
そんな文学作品を黒く染め、滅茶苦茶にしようとする"侵食者"たち。
"侵食者"からの脅威に文豪たちが立ち向かいます。
皆さんも一度は読んだ作品があるのではないでしょうか。
「走れメロス」はきっと中学生の頃に学習し、メロスとセリヌンティウスの熱い友情に心を震わせたはず。
ストーリーを知っているからこそ、その結末に問題提起するような展開や文豪たちの悩みに自ずと感情移入してしまいます。
©2016 EXNOA LLC/文豪とアルケミスト製作委員会・テレビ東京
もちろん、その文学作品を読んだことがない人にも非常にわかりやすくお話が展開していくので作品に触れるきっかけとしても非常に優秀。
自分が特に好きになったお話は「月に吠える」。
「月に吠える」が題材の第4話、第5話は全13話の中でもかなり独立したお話で、普通の少年が文学の魅力に触れることで自分の人生の価値を見出していきます。
そんな少年を巡るストーリーと先の読めない展開、独特な死生観が非常に魅力的。
アニメを見終わった後、青空文庫で「月に吠える」を読むと、話全体の見え方も変わってきて、一度で二度おいしい不思議な体験をしました。
他のお話もどれも素晴らしく、文豪たちの苦しみや文学作品の価値、ただ読書をしているだけでは気付かないようなところまで深掘りされた内容に、ハッと気づかされることが多くありました。
文学作品が好きな方はもちろん、今まで文学作品に触れてこなかった方にもおすすめしたい作品となっています。
あの浦島坂田船と南條愛乃さんが歌うぴったりな主題歌
『スタミュ』の「SHOW MUST GO ON!!」や『イナズマイレブン オリオンの刻印』の「明日へのBye Bye」など、
多くのアニソンを歌ってきたニコニコ出身のグループ、浦島坂田船。
そんな浦島坂田船が歌うOPテーマは、
「グッド・バイ」/ 浦島坂田船(作詞:イシイジロウ 作曲:渡辺翔 編曲:坂本英城)
作詞を務めるのは本作で世界観監修を行っているイシイジロウさん。
実は『サクラ大戦』でも作詞をしていました。
作曲はアニソン界を代表する作詞・作曲家、現在はsajou no hanaとしても活躍中の渡辺翔さん。
編曲は本作で劇伴も務めている坂本英城さん。
まずOP映像が素晴らしい。
手掛けるのは『ジョジョの奇妙な冒険』のOP映像などでおなじみ神風動画さん。
Aメロまではステンドグラスのハイカラな雰囲気で描き、明治後期から大正、昭和にかけての文豪たちが生きた時代を彩ります。
Bメロからサビでは背景に文学作品の印象的なフレーズを配置し、キャラクターがスピード感のある動きで所狭しと駆け巡ります。
3DGCの文字と作画のキャラクターの融合具合がお見事です。
サビ後半はこの作品の光の部分と闇の部分を示すような描写に、「蜘蛛の糸」を彷彿とさせるシーンも。
OP映像だけで、この作品の魅力が十二分に感じられる素晴らしい89秒です。
歌詞も非常に作品にぴったりで"言葉"、"文字"という直接的な表現はもちろん、
芥川龍之介の有名な言葉「人生は地獄より地獄的である」というワードも歌詞に含まれています。
"ぼんやりした不安"という部分も、芥川龍之介の遺言、
「何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安」
から来ているのでしょう。
自害という最期を遂げることが多い文豪たち。
悩みに悩んだ末出した結論は前向きなものばかりではない。
そんな文豪たちの暗い部分が歌詞はもちろんのこと、楽曲や歌声からも感じ取れる素晴らしい1曲です。
EDテーマは、
「藪の中のジンテーゼ」/ 南條愛乃(作詞:イシイジロウ 作・編曲:藤間 仁 (Elements Garden))
作詞を務めるのは「グッド・バイ」と同じくイシイジロウさん。
作・編曲は「あなたの愛した世界」、「黄昏のスタアライト」、「きみを探しに」など南條愛乃さんとは切っても切り離せない作曲家、藤間仁さんが担当しています。
タイトルの"藪の中"は言うまでもなく芥川龍之介の「藪の中」から。
"ジンテーゼ"は"正"という意味の「テーゼ」、"反対"という意味の「アンチテーゼ」、その2つのニュアンスが入り混じった単語です。
"矛盾の解決"、"統合"というかなり抽象的なワードですが、
「藪の中のジンテーゼ」と二つの言葉が並んで、それが芥川龍之介と太宰治の関係性を描くのであればその曖昧さにも納得がいく不思議なタイトル。
南條愛乃さんらしさが主張されつつも楽曲の世界観にぴったりな歌声が素晴らしい。どこまでも楽曲・作品に寄り添う声は唯一無二だなあと感じます。
歌詞は非常に文学的。
1フレーズ1フレーズが独立しているような、それでいて曲全体で1つのテーマが成り立っているような。
サビの、
幸福にさえ
傷ついた
弱虫には 生きてく価値ない
引用元: 「藪の中のジンテーゼ」/ 南條愛乃
は、太宰治の「人間失格」の一節、
弱虫は、幸福をさえおそれるものです。
綿で怪我をするんです。
幸福に傷つけられる事もあるんです。
引用元: 「人間失格」/ 太宰治
から来ています。
繊細な人は、大きな幸福を感じる瞬間にも、いつかその幸福が失われるんじゃないかと不安に傷ついてしまうという印象的な言葉。
女性とお付き合いして幸せな時でも、いつか別れるという先の未来に絶望し傷ついてしまう。
割と自分は楽観的な人間なので真意が汲み取れているかどうかは怪しいですが、気持ちは凄く伝わってくる言葉です。
一度手に入れたものを逃さないように執着する気持ちは人間の本能とも言えるでしょう。
そんな気持ちの時に知って救われたのが、"藪の中のジンテーゼ"。
1番では"君が見せた"、ラスサビでは"僕が見せた"となっています。
傷ついた気持ちも、お互いの関係性によってそんなに悲観的にならなくていいと思いなおすことが出来る。
芥川龍之介と太宰治の二人の絶妙な空気感・信頼関係が描かれた奥深い歌詞です。
おわりに
OPから本編、EDに至るまで文学の要素が詰め込まれたファンにとってはたまらない作品です。
劇中でそれぞれの関係性や代表作、立ち位置も知ることが出来るので今まで文学に触れてこなかった人にも文学を知りたいと思うきっかけになるはず。
自分も本作で日本語の曖昧で美しい絶妙な機微を感じたので、これを機に色々な文学作品にも触れてみようと思いました。
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