絵空事。
大げさで現実にはあり得ないこと。
"絵空事に過ぎない"、"絵空事を並べるな"など、否定的な使われ方をすることが多い単語ですが、夢のある美しい言葉だと自分は感じます。
重厚なハードボイルドの世界観が魅力で、"絵空事"とは割と対極にあるような本作。
そんな単語をサブタイトルにするほど、
"絵空事"を諦めて現実を受け入れたウォシャウスキー博士と、
"絵空事"を追い続ける鉄朗
の対比が見事に描かれた、
第20話「絵空事」について語っていきたいと思います。
『ノー・ガンズ・ライフ』とは
TVアニメ「ノー・ガンズ・ライフ」第2期PV ver.1.1
©カラスマタスク/集英社・NGL PROJECT
あらすじ
ベリューレン社により戦時中開発された新技術「身体機能拡張技術」。
その技術により身体の一部、もしくは全部を機械化された者は、拡張者(エクステンド)と呼ばれていた。拡張者と生身の人間の非拡張者が混在する社会では常にいざこざが絶えず、それらの問題を解決する「処理屋」を、乾十三(いぬいじゅうぞう)は生業としていた。
そして、十三自身も、頭部が巨大な銃の「拡張者」だった。
ある日、十三は、全身拡張者の大男から一人の少年の保護を依頼される。
その少年の名は荒吐鉄朗(あらはばきてつろう)。ベリューレン社から誘拐された少年だった。
だが、十三は依頼を受けたもののベリューレン社からの追手に、鉄朗を奪われてしまう。
十三はなりゆきで街を牛耳るベリューレン社と事を構えることになるのだが…鉄朗を誘拐した全身拡張者の男は何者なのか?
ベリューレン社と鉄朗の関係は?「ウルトラジャンプ」にて大好評連載中のSFハードボイルドここに開幕!
スタッフ
原作:カラスマタスク<span>(集英社「ウルトラジャンプ」連載)
監督:伊藤尚往『クロノ・トリガー』『オーバーロード』『きみの声をとどけたい』
シリーズ構成:菅原雪絵『オーバーロード』『ひなろじ from Luck&Logic』『キノの旅 the Beautiful World the Animated Series』
キャラクターデザイン:筱 雅律『BLACK LAGOON』『ALL OUT!! -オールアウト‼︎』
メカニックデザイン:出雲重機『EX MACHINA -エクスマキナ-』『魔法科高校の劣等生』『GODZILLA』
プロップデザイン:竹内杏子
総作画監督:筱 雅律/土屋 圭
色彩設計:堀川佳典
CG制作:サイクロングラフィックス
映像演出・VFXスーパーバイザー:加藤道哉
CG監督:設楽友久
撮影監督:川下裕樹/井関大智
編集:木村佳史子
音楽:川井憲次『めぞん一刻』『機動戦士ガンダム00』『ひぐらしのなく頃に』
音響監督:郷 文裕貴
音響効果:山谷尚人
音響制作:grooove
音楽制作:グッドスマイルフィルム
プロデュース:EGG FIRM
アニメーション制作:マッドハウス
製作:NGL PROJECT
キャスト
乾十三:諏訪部順一
荒吐鉄朗:山下大輝
メアリー・シュタインベルグ:沼倉愛美
オリビエ・ファンデベルメ:日笠陽子
クローネン・フォン・ヴォルフ:内田夕夜
ヴィクター・シュタインベルグ:興津和幸
ジョン・D・功木:櫻井孝宏
メガアームド斎時定:堀内賢雄
ペッパー:水瀬いのり
セブン:三瓶由布子
ヒュー・カニンガム:上田燿司
クリスティーナ松崎:江原正士
スカーレット・ゴズリング:高野麻里佳
第20話「絵空事」
あらすじ
己の過去に苦悩する鉄朗は、十三の身体を乗っ取り、ウォシャウスキー博士の元を訪れる。
彼こそは、ベリューレンと共に拡張技術を生み出した人物だった。
そして、鉄朗のハルモニエが、ガンスレイブユニットに対してある重要な機能を有していることを明らかにする。
鉄朗を確保すべく、島津たちが十三を取り囲む。
かつて十三に敗北した島津は復讐を企図していた。
スタッフ
脚本:菅原雪絵
絵コンテ:渕上真
演出:渕上真
作画監督:西川千尋/Drmovie
ピックアップポイント
ウォシャウスキー博士
©カラスマタスク/集英社・NGL PROJECT
十三の身体を乗っ取り、ウォシャウスキー博士の元を訪れる鉄朗。
拡張技術を生み出した博士は、街を牛耳る巨大企業・ベリューレンを打ち倒すためには鉄朗の拡張体遠隔操作装置・ハルモニエが必要であると断言。
十三の身体に入った鉄朗を捕まえるため、部下の島津が牙を剥きます。
鉄朗の意識は鉄朗の中に
©カラスマタスク/集英社・NGL PROJECT
全員の部下をもって十三の処理をしようとするウォシャウスキー博士。
ところが、鉄朗のハルモニエでハッキングしていたのは補助脳で、鉄朗自身の意識は鉄朗の中に。
十三は自らの足で歩もうとする鉄朗を手助けするため、自らの意志でここに赴いているのでした。
最初はオドオドしていた少年だった鉄朗も、様々な経験を通して立派な大人になったんだなあと成長を実感します。
山下大輝さんはこういう成長途中の少年の演技が本当に上手いです。
スピッツベルゲンとの交渉
©カラスマタスク/集英社・NGL PROJECT
ウォシャウスキー博士が率いる、反拡張技術主義を訴えるテロ組織・スピッツベルゲン。
鉄朗の要求は、スピッツベルゲンの今後一切のテロ活動の禁止。
その代償として差し出すのは鉄朗自身の身柄。
鉄朗のハルモニエさえあれば、ベリューレン社のガンスレイブユニットであるセブンは打ち倒せる。
裏で悪事を働くベリューレン社の真実を暴き、非道な実験をやめさせるためにもスピッツベルゲンに"テロ以外の方法での解決策"を見出してほしいと鉄朗は考えます。
語られる拡張技術の変遷
©カラスマタスク/集英社・NGL PROJECT
テロ以外の方法での解決はあり得ない。
ウォシャウスキー博士は拡張技術の始まりとスピッツベルゲン創設について語り始めます。
かつてウォシャウスキー博士は、ベリューレン社の創設者グループ"ヴルツェル"の元で、"人が人として生きるため"に拡張技術を研究する一人の技術者として拡張技術の開発・研究を行っていました。
長い年月の研究の内、崇高な"人が人として生きるため"という目的は"死なないため"に代わり、ついには研究をするための資金調達だけが目的に代わっていってしまいました。
スピッツベルゲンの創設と腐敗
©カラスマタスク/集英社・NGL PROJECT
戦後、ウォシャウスキー博士はベリューレン社から抜け出し、ベリューレン社を外部から監視し世間に警鐘を鳴らすためスピッツベルゲンを組織します。
拡張技術に関する犯罪に巻き込まれた被害者を中心としていたスピッツベルゲンも、社会へ不満を抱く者たちのふきだまりとなってしまい、今ではウォシャウスキー博士の手で押しとどめられる組織ではありません。
そんなスピッツベルゲンを止めるため、十三のガンスレイブユニットを欲しているのです。
長い年月で理念がねじ曲がってしまうこと。
手段が目的化してしまうこと。
こういった経験は自分も何度もしてきて、非常に耳が痛いなと感じる話でした。
フィクションでありながらも、自分たちが抱えている問題にハッと気づかせてくれる、そんな面白さがこの作品にはたくさんあります。
理想のための犠牲
©カラスマタスク/集英社・NGL PROJECT
他の十二機とは違う特殊な設定が十三のガンスレイブユニットにされており、その設定があるからこそセブンを打ち倒せる。
ハルモニエで操り真の力を開放させた十三番機の尊い犠牲があれば、拡張技術の正常化・テロ活動の鎮静化は果たせるのだとウォシャウスキー博士は持ちかけてきます。
かつて、ベリューレン社を正すために己を犠牲にした鉄朗。
当時はそれが正しいことだと判断しましたが、今は違う。
十三やメアリーさんとの出会い、様々な経験の中で成長した鉄朗は、理想のために犠牲を出すという選択肢をきっぱりと否定するのでした。
襲いかかるウォシャウスキー博士
©カラスマタスク/集英社・NGL PROJECT
非協力的な鉄朗に痺れを切らし、ウォシャウスキー博士は鉄朗からハルモニエだけを奪い取ろうと、エクステンドの姿で襲いかかります。
この姿が本当に気持ち悪い(誉め言葉)。
人が不快感を感じる集大成みたいなデザインです。
カラスマタスクさんの原作や、数々のSF作品を手掛けてきた出雲重機さんの圧倒的なデザインに思わず脱帽。
「どれだけ美しい理想を並べようとも、これが現実なのです。どんなに崇高な目的を持とうとも戦えば血は流れ、弱き物は奪われる。」
ベリューレン社とスピッツベルゲンに携わり、その腐敗を目の当たりにしてきたからこその言葉。
醜悪な見た目がよりその説得力を増します。
「絵空事とわかっていても、その空の美しさに焦がれるなら、この命を懸けてつかんでみせる!」
サブタイトル「絵空事」も含んだ、鉄朗の熱い名言。
あまりのカッコよさにテレビの前で鳥肌が止まりませんでした。
ハードボイルドな世界観だからこそ、こういう一見青臭い発言がめちゃくちゃ映えます。
全てを諦めた老人と、これからの希望に満ち溢れた少年という対比構造も美しい。
永遠に語り継いでいきたい痺れる名言で、第20話「絵空事」は幕を下ろしました。
おわりに
2クールに渡って描かれてきた『ノー・ガンズ・ライフ』の世界ももう終盤。
どんどんと明かされる拡張技術の秘密や、過去。
結構用語が多くて一回見ただけだと把握しきれない部分もあったりしますが、だからこその重厚な世界観が見ていて本当に面白い。
もしこの記事が、読んでいる人の本作への理解の一助となっていれば幸いです。
鉄朗を信じ抜く十三さんカッコよかった!
ウォシャウスキー博士の気持ちも凄いわかる!
など意見や感想があればコメントしていただけると嬉しいです。
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また次の記事で!