"愛とはなんぞや?"
愛っていったいなんなんでしょうかね。
どこにでもいそうなフリーター、リクオを中心に回る青春群像劇、リアルな愛の四角関係を描く『イエスタデイをうたって』について語っていきたいと思います。
『イエスタデイをうたって』とは
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
TVアニメ「イエスタデイをうたって」4月4日(土)テレビ朝日 新・深夜アニメ枠「NUMAnimation」放送開始
あらすじ
大学卒業後、定職には就かずにコンビニでアルバイトをしている
“リクオ”。特に目標もないまま、
将来に対する焦燥感を抱えながら
生きるリクオの前に、
ある日、カラスを連れた
ミステリアスな少女ー“ハル”が現れる。彼女の破天荒な振る舞いに戸惑う中、リクオはかつて憧れていた同級生“榀子”が東京に戻ってきたことを知る。
榀子を昔から知る少年“浪”により、榀子の過去が明らかになり..。緩やかに紡ぎ出される青春群像劇。
スタッフ
原作:冬目景(集英社 ヤングジャンプ コミックス GJ刊)
監督・シリーズ構成・脚本:藤原佳幸『GJ部』『未確認で進行形』『NEW GAME!』
副監督:伊藤良太
脚本:田中仁『Go!プリンセスプリキュア』『ゆるキャン△』『八月のシンデレラナイン』
キャラクターデザイン・総作画監督:谷口淳一郎『薬師寺涼子の怪奇事件簿』『月刊少女野崎くん』『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』
総作画監督:吉川真帆『AMNESIA アムネシア』『暁のヨナ』『アサシンズプライド』
音響監督:土屋雅紀
音響効果:白石唯果
美術監督:宇佐美哲也
色彩設計:石黒けい
撮影監督:桒野貴文
編集:平木大輔
背景:スタジオイースター
音響制作:デルファイサウンド
アニメーション制作:動画工房
制作:DMM.futureworks
音楽制作:agehasprings
キャスト
魚住陸生:小林親弘
野中晴:宮本侑芽
森ノ目榀子:花澤香菜
早川浪:花江夏樹、村井美里 (幼少期)
木ノ下:鈴木達央
狭山杏子: 坂本真綾
福田タカノリ:寺島拓篤
福田梢:洲崎綾
杜田:名塚佳織
滝下克美:堀江瞬
湊:小野友樹
柚原チカ:喜多村英梨
カンスケ:前川涼子
おすすめポイント
自分は毎日やりたいこと出来てるし、 普通に幸せなので特に恋愛をする必要を感じていないんですが、アニメの恋愛関係を見るのは大好きです。
特にやっぱりフィクションでしかお目にかかれないようなドロドロした恋愛、たまらないですよね。
登場人物のリアルな生活感と恋愛模様が魅力な本作を以下の3つのポイントで紹介していきます。
・感情移入しやすいどこまでもリアルなキャラクター達
・"愛とはなんぞや?"という主題にふさわしい四角関係の恋模様
・展開に合わせて変わっていく3曲の主題歌
感情移入しやすいどこまでもリアルなキャラクター達
大学卒業を目前に、本当にそのまま就職してしまっていいのか疑問に思い、定職に就かずコンビニでアルバイトをする主人公、リクオ。
カメラが好きで写真撮影をしているものの、それを仕事にする気はなく、特に大きな目標もないまま、しかし、きっと自分が何者かになれると頭の隅で考えながら日々生きています。
性格は良く言えば温厚で、劇中で怒っている描写は1回もなかったと思います。
悪く言えば奥手で、相手の意見を尊重する、あるいは自分が悪く思われないために他人に過度の干渉をしない、いわゆる「優しい人」という感じです。
めちゃくちゃリアルな設定じゃないですか?
自分も新卒で入った会社を2週間でやめて、最速でフリーターになったことがあります。
退職した理由はいろいろありますが、つまるところ、
"ここにいたら何者にもなれない"
と感じたからでした。
今でも何者かになりたいか、と言われたらちょっと解答に困りますが、大学生から社会人になる時、新しい環境に移る時、誰しも抱える悩みだと思います。
「優しい人」というのも多くの日本人に当てはまりすぎる表現だと思います。
他人に迷惑をかけたくないという気持ちと、波風を立てたくないという気持ちの両面から言いたいことを言わずに過ごしちゃうの、あるあるですよね。
そして大体言わないことで悪い方に話が転がるという。
いつも黒い服を着て、足の悪いカラス、カンスケを連れている不思議な少女ハル。
大学受験の日にリクオが落とした受験票を拾って渡したことがきっかけでリクオを好きになります。
リクオやもう一人のヒロイン、榀子に比べると少し幼く、たばこを見つめる描写などもあり、大人への憧れがある少女です。
一度好きになったリクオを絶対自分のものにしようと、いろいろ頑張る、健気で一途な恋愛観を持っています。
ありきたりな表現で言うとミステリアスさを演出するために、黒い服を着るなどちょっと中二病なところが残っているといったイメージです。
特にカラスのカンスケを飼っているところには中二病なところと、ハルの根の優しさが表現されているのかと思います。
リクオに振り向いてもらおうとせいいっぱい背伸びするハル、めちゃくちゃ可愛いしすごい等身大な少女だなと思わせてくれます。
好きが過ぎて、もはやリクオに依存しているような描写もあり、きっと恋する多くの女性がハルに共感すること間違いなしです。
リクオの大学の同級生で教師をしているもう一人のヒロイン、榀子。
過去に好きだった幼馴染を失くし、ずっと前に進めないでいる女性です。
リクオに一度告白されるも、「友達の関係がいい」と断りますが、完全に突き放すでもなく、リクオをいわゆるキープしておく状態にしています。
八方美人で優柔不断なところが多く、リクオともある程度の関係性を保ちつつも、好きだった幼馴染の弟、浪にはそのような関係がばれないよう隠し事を続けます。
そんな隠し事を続けている状態にも悩んでいて、前の二人に比べるとちゃんとした大人の社会人でありながら一番頭を抱えている時間が長い人のようにも思えます。
ザ・現実の女性というイメージの榀子。きっと大半の女性が榀子に共感し、大半の男性が榀子に負の感情を抱くでしょう。
八方美人の美人な部分以外も作品ではしっかりと描かれるので、榀子の一挙手一投足から目が離せません。
榀子を演じる花澤香菜さんの演技も素晴らしく、リアリティここに極まれりといった感じです。
榀子が好きだった幼馴染の弟で、7歳年上の榀子のことが本当に大好きな、浪。
榀子からは弟以上の感情を持たれておらず、日々苦悩しています。
いかにして弟ではなく、一人の男として見てもらえるか考え、努力して大人ぶってみるも空回りする浪の姿は応援せずにはいられません。
左耳にピアスのように安全ピンを付けているのも榀子への精一杯のアピールかと思うと涙が出てきます。
年上の女性を好きになってアピールしたことはないので根本から共感できるかと言われるとそうでもないですが、男性ってなんだかんだ女性の前では格好つけてしまいがちですよね。
ここに関してはきっと男性ならみんな共感してしまうはずです。
奥手すぎるが故に、女性を前にしても一歩引くリクオとは正反対のキャラクターとして描かれます。
榀子がリクオとの関係を進展させない理由として使われることも多く、良い意味でも悪い意味でも、『イエスタデイをうたって』の絶妙な関係性を保つための重要な立ち位置にいる人物です。
とにかくリアルに描かれるこの4人。きっと誰しもが、抱いたことのある感情をそれぞれが持っていて、感情移入せずにはいられません。
世田谷区の下北沢が舞台となっているこの作品、若林公園や井の頭恩賜公園など自然豊かな場所も、コンビニやアパートの一室などもリアリティに拍車をかける素晴らしい背景、美術で描かれます。
繊細な心情の変化を表す表情や所作、演出も大変素晴らしいです。
将来に対する漠然とした不安を抱えている人や、恋愛に悩んでいる人にはめちゃくちゃ刺さる作品だと思います。
"愛とはなんぞや?"という主題にふさわしい四角関係の恋模様
前述した4人の"愛"が絶妙に描かれる『イエスタデイをうたって』。
ハル→リクオ↔榀子←浪
端的に表すとこういった四角関係の状態になっています。
しかし、リクオと榀子は周りを傷つけないため、自分が傷つかないために態度をそこまで明らかにしないし、関係も進展しません。
そんな中で精一杯のアピールをする、ハルと浪。
その一方で好きな人に迷惑をかけたくないという配慮もしっかりしていて、4人の関係はより絶妙なリアリティを生み出します。
リクオは、ハルから受けている好意にどう答えればいいかわからず、榀子との関係が本当に恋愛関係なのか、大学時代の交流の延長線上ではないのか、まさに"愛"について悩み続けます。
榀子も、浪から受けている好意にどう答えればいいかわからず、リクオとの関係性を進めることを拒否しつつ、本当にそれでいいのかと自問自答を繰り返します。
ハルはリクオが榀子に好意を寄せていることを知っており、そのうえでリクオに振り向いてもらえるようにアピールします。
時には夜遅くまでリクオの帰りを待ったりすることもあり、自分の行動の重さがリクオへの負担になっているのではないかと、自分の気持ちとリクオの気持ちの間で葛藤を続けます。
浪は榀子を振り向かせたいと思いつつも、7歳年下という圧倒的なハンディキャップに苦しみます。
榀子が自分の面倒を見てくれるのは兄がいたからであって、自分の存在のせいで榀子のやりたいことを制限してしまっているのではないかという罪悪感にもさいなまれています。
この4人の感情の揺れ動きや行動を見ていると思うわけです。
"愛とはなんぞや?"
どこまでもリアルでそれでいて面白い、心動かされる四角関係をぜひその目でお確かめください。
展開に合わせて変わっていく3曲の主題歌
このアニメ、OPテーマがありません。
その尺を使ってでも一人一人の心情を描きたかったというスタッフの強い熱意を感じます。
展開と共に変わっていくEDテーマはどれも名曲です。
第1話~第6話までのEDテーマは、
「籠の中に鳥」/ ユアネス(作詞・作曲:古閑翔平 編曲:ユアネス、玉井健二、横山裕章)
ユアネス-yourness-「籠の中に鳥」Official Music Video【アニメ「イエスタデイをうたって」主題歌】
個人的にはEDテーマ3曲の中でも一番作品にぴったり寄り添っていて、切ない歌詞が素晴らしい大好きな楽曲です。
片思いの切ない気持ちがたっぷりと歌詞に表れています。
好きになってしまったこと、好きになってしまった人、何度も何度も思い返して、考えれば考える程辛くなるとわかっていても考えてしまいますよね。
あぁ どうすれば この身体から
あなたを隠す事ができるのか
ねぇどうすれば ねぇどうしたら
笑って 昨日を 唄ってられるのでしょうか引用元:「籠の中に鳥」/ ユアネス
普通だったら、忘れるとか、無くすといった表現が多い、恋愛の歌詞。
この曲では「隠す」と表現されています。
絶妙なワードセンスですよね。
好きになってしまった人のことは忘れることも無くすこともできなくて、せめてどうやったら隠すことができるのか。
どうやったら笑って明日を迎えられて、昨日を思い返して歌えるような気持ちになれるのか。
常に"愛とはなんぞや?"と考え続け、悩む彼ら彼女らにぴったりな歌詞です。
第7話から第9話のEDテーマは、
「葵橋」/ さユり(作詞・作曲:さユり 編曲:江口亮)
こちらの楽曲は非常に写実的な歌詞で、とことんリアルな人間関係、世界観の『イエスタデイをうたって』のリアリティをさらに増す役割を担ってくれていました。
そしてやはりテーマは片思いの忘れられない恋になっていて、「籠の中に鳥」とはまた別の角度でのアプローチが行われています。
2番の歌詞は、カメラ、写真を題材にした歌詞になっており、写真が好きな気持ちと共に少しずつ前に進んでいくリクオともぴったりです。
ED映像はハルを主人公としたレトロゲームになっており、端的に、そしてキャッチ―に『イエスタデイをうたって』の世界観が表現されていて思わずニヤっとしてしまいます。
タイトルの「葵橋」というのも実際の路面電車の駅、「葵橋駅」から来ているそうです。
第10話と第11話のEDテーマは、
「イエスタデイをうたって」/ agehasprings feat あにー(TaNaBaTa)(作詞:忌野清志郎 作曲:肝沢幅一 編曲:玉井健二、大西省吾 ミックス:森真樹)
作品タイトルの元ともなった、RCサクセションさんの歌う「イエスタデイをうたって」のカバー楽曲。
あの忌野清志郎さんで有名なRCサクセションさん。ほぼアニソン以外を聴いてこなかった自分もRCサクセションさんの名前は知っていました。
歌詞の半分以上が「イエスタデイをうたって」を繰り返しているフォークロックソング。
皆さんは「イエスタデイをうたって」ってどういう意味だと思いますか?
個人的には2つの意味があると思っています。
1つは「イエスタデイ」が「昨日」を指していて、「籠の中に鳥」の歌詞解釈にあるような、
昨日を思い返して歌えるような気持ちになれないでいる絶妙な4人の関係性を表すワードであるという解釈。
もう1つは「イエスタデイ」がビートルズの楽曲「Yesterday」を指していて、
どんな辛いことがあってもそんなこと関係なく、ただそばにいて「Yesterday」という優しい曲を歌ってほしいという愛の言葉であるという解釈。
僕はこの両方の意味で『イエスタデイをうたって』というタイトルになったのかなと考えています。
解釈はきっと人それぞれだと思うので、もし感想や意見があればコメントしていただけると嬉しいです。
配信情報
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普段アニメを見てない人ほど刺さる作品だと思いますし、普段アニメを見ている人はリアリティを追求した細かい演出などにきっと目が離せなくなるはずです。