「早く人間になりたい。」
『妖怪人間ベム』で50年間描かれてきたベム達の夢です。
この映画のキャッチコピーは、
「妖怪人間ベム最終章 ついに願いは叶えられる」
「妖怪人間として、生きていく」
そして副題は"~BECOME HUMAN~"。
一体ベム達はどうなってしまうのか、巧妙に張られた伏線とどんでん返し、妖怪人間の悲しい物語が詰まった『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』について熱く語っていきたいと思います。
感想を伝えたいがため、滅茶苦茶ネタバレしているのでネタバレが嫌な方は絶対に読まないでください。
責任は負いかねます。
『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』とは
あらすじ
リブラシティの事件から2年。
行方不明となったベムたち妖怪人間の行方を探し続けていた刑事・ソニアは、目撃情報を元に「ドラコ・ケミカル」という製薬会社を訪れる。
そこで出会ったのは、逞しく成長し、たった一人で悪と戦い続けるベロ、戦いを拒み、普通の女の子としての暮らしを望むベラ、そして、ベムにそっくりな姿の"ベルム"という男だった・・・。ベルムは、自分のことをベムと呼ぶソニアとの接触以来、毎夜、悪夢にうなされることになる。
愛する妻と子どもに囲まれた暖かい家庭。優しい街の人々とのいつもの交流。気の置けない同僚と、やりがいのある仕事。
そんな、自分にとってごく普通の、変わらないはずの日常が、音を立てて崩れ落ちていく―。
「俺は一体、誰なんだ・・・?」彼らの運命はすれ違い、交錯し、やがて妖怪人間誕生の秘密へと繋がる。
長年抱いていた夢の答え。果たして妖怪人間が選び取った未来とは・・・!?
スタッフ
原作:ADKエモーションズ
監督:博史池畠『それが声優!』『AKIBA'S TRIP -THE ANIMATION-』『トニカクカワイイ』
脚本:冨岡淳広『ポケットモンスターシリーズ』『ヘボット!』『デジモンアドベンチャー:』
キャラクター原案:村田蓮爾『LAST EXILE』『ラストエグザイル-銀翼のファム-』『ID-0 』
キャラクターデザイン・総作画監督:松本美乃
モンスターデザイン:関川成人
色彩設計:竹田由香
美術監督:金子雄司
CGディレクター:磯部兼士
ビジュアルエフェクト:森川万貴
編集:村上義典
音響監督:亀山俊樹
音楽:SOIL&"PIMP"SESSIONS、未知瑠
音楽制作:フライングドッグ
制作:Production I.G
配給:クロックワークス
製作:劇場版BEM製作委員会
キャスト
ベム:小西克幸
ベラ:M・A・O
ベロ:小野賢章
ソニア:内田真礼
ウッズ:乃村健次
Dr.リサイクル:諏訪部順一
ドラコ:高木渉
グレタ:伊藤静
エマ:水樹奈々
バージェス:宮田俊哉(Kis-My-Ft2)
マンストール:山寺宏一
ピックアップポイント
序盤から張り巡らされた嫌な予感のする伏線
『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』一部本編映像~日常編~
「ドラコ・ケミカル」という製薬会社を中心に構成された街に住んでいるベムにそっくりな男、ベルム。
見た目も声もどう考えてもベムなのに、何故か妻と息子と娘がいて4人で暖かい家庭を築いています。
気の置けない同僚・バージェスや、優しく挨拶してくれる街の人、和気あいあいとした職場、ベルムの生活はまさに順風満帆そのものでした。
しかし、視聴者側は微妙な気持ち悪さを序盤から感じることになります。
何故か飲まされる成分のわからない薬・d-doxin、ベルムには挨拶するがバージェスには挨拶をしない街の人、やった覚えのない仕事、うだつの上がらないマンストール部長の声優が何故か山寺宏一さん。
何かあるんだろうなあとは思いつつも、その核心まではわからない展開は序盤から見事に引き込まれました。
妖怪人間の最大の理解者・ソニアと戦い続けることを選んだベロと女の子として生きるベラ
『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』キャラクターPV~ソニア編~
ベムたちの目撃情報を元に、街にやってきた刑事・ソニア。
「ドラコ・ケミカル」の裏の顔を暴くため、そしてベム達に感謝の気持ちを伝えるため、闇取引の現場を抑えようとします。
ところが、闇取引をしていた「ドラコ・ケミカル」の社員はなんと妖怪人間に変身。
危機一髪のところを妖怪人間・ベロに助けられ一命をとりとめます。
『妖怪人間ベム』と言えば、妖怪人間より遥かに心の汚い人間たちの醜さ。
そんな汚い人間たちの中で、ベム達に感謝を伝えるために危険を冒すソニアさんの心のまっすぐさが際立ちます。
そしてベロは、ベム、ベラと別れた後も一人で弱き人を救うべく、悪と戦い続けていました。
一方ベラは戦いをやめ、人間ごっこの日々。
ファーストフード店で一人の女の子として生きていけるよう、笑顔を振りまいていました。
三者三様の妖怪人間の生き様には、彼らにとっての本当の幸せとは何なんだろうなと思いを巡らせてしまいます。
徐々に記憶が戻っていくベルム
『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』キャラクターPV~ベルム編~
ベルムとソニアは一度対面するも、ベルムの記憶にソニアは無く、その正体を知ることはできませんでした。
しかし、ベルムの記憶にも異変が。
少しずつ少しずつ、自分がベムだった頃の記憶が蘇ってきて、悪夢にうなされます。
妻のエマや同僚、産業医はとにかく薬を飲む量を増やせと言うばかり。
飲むふりだけして薬を飲まないでいると、ベムは色々な違和感に気付き始めます。
同じことしか言わない子供、同じ挨拶しかしない街の人々、電話と共に途絶える意識。
そうこの街全体が、
ベムの実験をするためだけに作られた作り物の街だったのです。
仮初めの人間らしい生活と、記憶に蓋をする薬でベムを拘束し、ベムから妖怪人間の細胞・ベム細胞を摘出・研究し、軍事利用するのが「ドラコ・ケミカル」の目的。
何となくはわかっていましたが、まさかこれほど大規模な計画だったとは。
ベムの意識が途絶えた途端に数十人が一斉に演技を辞める広報部のシーンは鳥肌が立ちました。
「早く人間になりたい。」
そう願っていたベムに仮初めの家族、仮初めの人間らしい生活を与えるなんてこんな酷い仕打ちがあるか…と心臓をギュッと掴まれる思いでした。
妻・エマとの悲しすぎる決別
『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』キャラクターPV~エマ編~
完全に妖怪人間の頃の記憶を取り戻し、大ケガを負いながらも「ドラコ・ケミカル」から逃げ出したベムは自分が生まれた場所に行った後、エマの待つベムラの家へと帰りました。
エマも「ドラコ・ケミカル」に協力していましたが、実験の内容までは知らず、ただ暖かい家庭と定期的な薬の摂取をベムラにさせるという指示を受けていただけでした。
片腕が妖怪人間になった状態のベムを見て、一度は恐怖し悲鳴を上げるものの、ベムラと過ごしてきた時間は嘘ではありません。
妖怪人間になったとしてもベムラを受け入れようと思った直後、エマは強制的に妖怪人間にさせられてしまいます。
あらかじめ、街の人々には腕時計や指輪が付けられており、「ドラコ・ケミカル」の意のまま、いつでもベム細胞が送り込まれ、妖怪人間にさせられてしまうという最悪な状況。
涙を流しながら襲いかかってくるエマをベムは殺すことしかできませんでした。
ベムが手に入れた人間らしい生活の象徴である妻を妖怪人間にさせられ、妖怪人間同士で殺し合わないといけない。
あまりにも、あまりにも辛すぎてここの戦闘は涙が止まりません。
特にこのシーンは作画が素晴らしく、エマとベムの一挙手一投足からその悲しい気持ちが伝わってくるようでした。
ここからはもう悲しみの連続。
息子や娘は妖怪人間に擬態能力を与えた存在。
だからこそ自我もなく、ひたすら毎日同じセリフ、同じ行動をし続けていたのです。
襲いかかってくる妖怪人間の息子と娘を殺し、街に出るベム。
挨拶してくれた優しい街の人々も全員妖怪人間。
その全てを薙ぎ払い、ベムは「ドラコ・ケミカル」に再び向かいます。
真の黒幕と宮田俊哉さんの演技
『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』キャラクターPV~バージェス編~
「ドラコ・ケミカル」の代表、ロレンツォ・ドラコは結構大物感もあったので黒幕側に関与しているんだろうなと思っていたら一瞬で死にましたね。
序盤で感じた嫌な予感通り、マンストール部長が妖怪人間が生まれるきっかけとなった伯爵。
そして同僚のバージェス、社長秘書であるグレタが伯爵と共に妖怪人間の研究をしていた黒幕でした。
声を大にして言いたいのがバージェス役の宮田俊哉さんの演技。
『ラブライブ!』が好きだったり、コスプレをしたり、アニメ好きなことは多くの人に知れ渡っているかとは思いますが、なんと今回が声優初挑戦。
事前に宮田さんが出ていることを知らなかったので、映画を見ながら、
この声優さん誰だろうなあ…
と思っていたらエンディングテロップで流れる、
宮田俊哉(Kis-My-Ft2)
の文字。
毎日毎日死ぬほどアニメを見ていると、芸能人が声優をやってるときは一瞬で気づきます。
気付かない方がおかしい。
常々そう思っている自分ですが、本当に気付きませんでした。
もちろん棒演技ではなく、かといって主張しすぎてもいない。
『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』の世界観にしっかりと溶け込んだ演技は今年一驚いたかもしれません。
最終決戦、そして迎えるそれぞれの結末
『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』クライマックスPV
ベムの危機に駆けつけるベラとベロ。
ベムは妖怪人間となったマンストールと、
ベラはグレタが変身した赤くてかっこいい妖怪人間と、
ベロは超巨大な妖怪人間ベガと、それぞれ戦うという因縁の深い最終決戦でした。
決戦前にベムが放った、
「俺は妖怪人間だ。妖怪人間として、生きていく。」
という言葉はここまでの展開、そしてここからの展開を知ることでより深い意味を持つフレーズでした。
戦闘は本作の最後を締めくくるだけあって圧倒的な迫力。
妖怪人間の最終形態ともいえる姿は美しいほどに見事で、思わず息を飲みました。
原画テロップでは江面久さんや、小川完さんなどの名前も見受けられましたが、流石にカットの特定は難しかったです。
大激闘の末、ベム達はなんとか勝利しますがソニアは戦いに巻き込まれ死の淵。
ベムがソニアを想って流した血の涙は、人間よりも人間らしいベムの心を表す尊いものでした。
想いの強さに反応し、光に包まれる二人。
ベムは自らの身体を捨て、魂をソニアの身体と一つにしました。
ベムはソニアと共に生き、
ベラは人間の女の子として生活し、
ベロは弱き人を助けるため戦い続ける。
ベムは結局、望みだった人間になれてよかったね。
そんな単純なハッピーエンドではない、非常に考えさせられる終わり方でした。
ベラだって、人間の女の子のふりをし続けるのが幸せだとは限りません。
きっとまた、人間との価値観の違いにぶつかることもあるだろうし、本当の意味で人間になりたいと思う日も来るはず。
ベロの道は更に険しい。
人間の悪の気持ちはとどまることを知らず、きっと戦いは終わらないだろうし、感謝されないことも、裏切られることもある。
それでも3人はそれぞれ、自分の道を選びました。
その道が幸福に続いているかはわからない。
自分の決意を正しいものにするために、これからも生き続けていく彼らの未来を想うと、胸が張り裂けそう。
作品が終わっても我々の心にずっと残り続ける、『妖怪人間ベム』らしい素晴らしい結末でした。
主題歌「unforever」/ りぶ
歌うのは『胡蝶綺 〜若き信長〜』の「疾走」などで知られる人気歌い手のりぶさん。
作詞・作曲・編曲は『東京喰種トーキョーグール』の「unravel」、『Pet』の「蝶の飛ぶ水槽 」などでお馴染み、凛として時雨のTKさんが務めています。
元々りぶさんの歌声が大好きでしたが、その特徴はまっすぐなハイトーンボイス。
TKさんのダークな楽曲に合うのか少し疑問に思っていましたが、聴いてびっくり、とんでもない親和性を生み出しています。
タイトルの「unforever」は造語。
もちろん"永遠ではない"という意味で使っているとは思いますが、「Not forever」が正しい英語です。
でもだからこそTKさんはあえてこの曲のタイトルを、造語である「unforever」にしたと思うんですよね。
一見ちゃんとした英語の様に見えて実はまがい物である。
この状態はまさに人間と妖怪人間の関係性。
タイトルから既にTKさんの底知れぬこだわりが感じられます。
歌詞も本作に非常にぴったり。
醜い僕を見るすべての視線の醜さを
見て見ぬふりをして誰もが誰かを壊して
出典:「unforever」/ りぶ
妖怪人間を恐れ、軽蔑する人間の目。
そしてそんな目をする人間自身の醜さ。
そんな『BEM』のエッセンスがこの短い歌詞に凝縮されています。
それぞれ韻を踏んでいる、
"悲しみのShow Time 永愛を招待"
"輝いて見えるの 人間の正体"
"輝いて見えるの 有限のShow Time"
永遠に生き続ける妖怪人間だからこそ憧れてしまう、変わらぬ愛・人間・有限な寿命。
耳に心地よいリズムに乗せて、こんなにもしっかりと作品のテーマ・魅力を紹介するのは本当に凄いセンスだなと舌を巻く想いです。
ベム、ベラ、ベロの3人の選択を見届けた後に流れたこの素晴らしいエンディングテーマは、忘れられないアニソンの1曲になりました。
おわりに
色々感動した!という記事を他にも書いている自分ですが、2020年に見たアニメで一番心動かされた映画は間違いなくこの作品だと思います。
それぐらい序盤の伏線、中盤のどんでん返し、終盤の結末、どこをとっても『BEM』の魅力が詰まりに詰まっていました。
先にテレビシリーズで12話かけてベム達の想いが描かれたからこその思い入れも、非常に強かったです。
Youtubeの再生数を見る限り、そこまで多くの人に見られていないような雰囲気を感じますが、こんな名作はそうそうありません。
ぜひ、まだ映画を見たことない方に広くおススメしていきましょう。
衝撃的すぎて自分も泣きました!
宮田さんをはじめキャストさんの演技が素晴らしかった!
など意見や感想があればコメントしていただけると嬉しいです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。もし記事が良かったなと思ったらSNSへのシェア、Twitterのフォロー等、ぜひともよろしくお願いいたします。
今後もアニメに関する記事を毎日投稿していきますので、ぜひご覧ください。
また次の記事で!