Z級。
A級は王道の超有名どころの作品、B級は万人受けはしないもののコアなファンがいる作品、そしてZ級はその極みみたいな存在。
同時に予算の潤沢さを表す指標としてのニュアンスも含まれます。
特に実写映画の中でも本数が多い洋画で使われることが多い表現かと思いますが、アニメ映画も増えてきた昨今、明らかに万人受けを狙っていない作品も確かにあります。
ということで今回は、2020年11月27日に公開された話題のアニメ映画、
『君は彼方』について語っていきたいと思います。
『君は彼方』とは
あらすじ
「だって・・・努力したからって、絶対報われるわけないじゃん。」
高校2年生の澪は学校の授業は適度に手を抜き、宿題もとりあえず後回し、本気で努力することが苦手な女の子。
幼馴染の新と親友の円佳と、放課後は池袋で遊んで、それなりに楽しく生きていた。「私、新のこと・・・気になってて」
そんなある日、円佳に新のことが好きだと告げられた澪は、自分も新の事が好きだったことに気づく。
でも、3人の関係が崩れることが怖くなり「応援する」と伝えてしまった。
どうしたら良いのか分からなくなった澪は、新にワザとよそよそしい態度を取ってしまい2人はケンカに。
すれ違いの中で、自分の気持ちから逃げてばかりだったことに気が付いた澪は、
新と向き合うことを決め、仲直りをしようと雨の中を新の元へ向かう途中、交通事故に遭ってしまう。
そこは、いつもと違ういつもの街――
澪が意識を取り戻し、目を開けると、そこには不思議な世界が。
海の上を走る電車、横を綺麗なクジラが泳いでいる・・・。
見たこともない場所。
電車が駅に到着し改札を出ると、今度は見慣れた池袋の街並みが広がっている!けど、どこか変。
不安になりながらも街を歩くと、澪は「この世界のガイドだ」と名乗るギーモンと出会う。
ギーモンから澪は<世の境>にいると説明され、望む世界に行けるという扉を開かせようとした、その時。「これ以上、ガイドの話を聞いたらだめ。戻りましょう!」
謎の女の子・菊ちゃんに引き留められた澪は<世の境>から本当に抜けられる方法は<忘れ物口>と呼ばれる場所に行き、
元の世界での大切な思い出の中にある“忘れ物”と、帰りたい強い“想い”を伝えることだと教えられる。
ギーモンと菊ちゃんと共に<忘れ物口>を探し出した澪だったが、何故か“大切な思い出”が分からない。
答えられず戸惑う澪を残し、係員は消えてしまった。「私、新に会いたい。どうしても伝えたいことがあるの!」
澪は新の元に戻るための唯一の手段、
“大切な忘れ物”を思い出で溢れた“誰もいない池袋”の街で辿ることとなる――
スタッフ
監督・原作・脚本:瀬名快伸
キャラクター原案:はぁおん
キャラクターデザイン:阿部智之『妖逆門』
総作画監督:阿部智之
アニメーション演出:浅見隆司
美術監督:片平真司
色彩設計:山田瑞穂
撮影監督:長牛豊
編集:後藤正浩
音響監督:瀬名快伸
音楽:斎木達彦
音楽プロデューサー:桑波田景信
効果:今野康之
製作:「君は彼方」製作委員会
キャスト
宮益澪:松本穂香
鬼司如新:瀬戸利樹
織夏:土屋アンナ
菊ちゃん:早見沙織
ギーモン:山寺宏一&大谷育江
忘れ物口係員:木本武宏(TKO)
円佳:小倉唯
宮益沙智:仙道敦子
殯:竹中直人
森おばあちゃん:夏木マリ
Z級アニメ映画たる所以
少なすぎる上映回数
まずはこの記事を読んでいる人に謝らなければなりません。
自分の遅筆故に、もしかするとこの記事を読んでいるころには上映が終わっているかもしれないのです。
というのも、あらすじやPVを見てもらうとわかる通り、本作の舞台は"池袋"。
中でも「TOHOシネマズ池袋」は、作中でも2回ほど非常にわかりやすく登場する聖地。
しかし、その聖地の映画館でさえも、公開2週目の週末にして既に上映回数が1日に1回。
さらに、「TOHOシネマズ池袋」の中でも最も座席数が少ないスクリーンでの上映となっているのです。
映画館のすぐ目の前にある中池袋公園のanimate cafeさんや、としま区民センターさんでも大きく宣伝しているにも関わらず、この上映回数は明らかに異常事態。
見たいという方はできるだけ早く映画館に行くことをお勧めします。
多くの映画館では12/10に上映が終了する見込みです。
常に予算キツキツのテレビアニメ第9話ぐらいの作画
自分はいわゆる"作画崩壊"という単語が嫌いで、予算的にもスケジュール的にも、きっとギリギリのラインを走っているであろう作品を見ると心の底から応援したくなります。
本作は常にその絶妙な作画で走り続けるという、劇場版としては極めて異例な状態。
作画的に見ごたえがあるシーンも無ければ、キャラクターデザインから大きくかけ離れているシーンもない。
作画カロリーが非常に高い、街の人々の雑踏というアニメーションも左上の黒い影のように設定でうまく避けています。
何と言っても本作の原画は9人。
少数精鋭のスタッフの頑張りを思わず応援したくなってしまうはずです。
個人的に好きなカットはこの"いけふくろう"が飛び立つカット。
とてもフクロウが飛んでいるとは思えない、謎の物体が空中を前後左右に動く描写は、二度と忘れることのできない衝撃的なシーンでした。
明らかに間違っているキャスト起用
この絶妙に可愛くない緑色のモンスターが本作のマスコット・ギーモン。
なんと声を当てているのは山寺宏一さんと大谷育江さんのダブルキャスト。
基本は大谷育江さんが喋り、要所で山寺宏一さんが喋るという設定なのですが、正直必要のない設定かなという印象。
というか明らかにスティッチ。
『ポケットモンスター』のような大御所を並べつつも、メインキャストには芸能人を採用。
有名監督はアニメ声が嫌いだから声優を起用しないといった例もありますが、確かに一般人はそんなに上手く感情を声に乗せて喋りません。
本作でもリアリティを追求した、絶妙な演技を終始楽しむことが出来ます。
魅力的でないキャラクター
キャラクターが魅力的であっては、一流のZ級映画ではありません。
メインヒロイン、宮益澪は努力や面倒なことが苦手で、自分に自信がなく諦めやすい性格。
一見、感情移入しやすい性格のようにも思えるのですが、素直に惹かれるところが一つもない女の子です。
男性キャラの鬼司如新は、後で少し解説しますが霊感を持っている以外、特に特徴のないキャラクター。
何故か友達が一人もおらず、澪と遊んでいるところしか描写されない、よくわからない人物です。
この魅力的でないキャラクター2人の恋愛模様。
人を好きになるのに理由は要らないのかもしれませんが、そこまでしてこの相手にこだわる理由があるのかなあというモヤモヤ感を上映中ずっと楽しむことが出来ます。
要注目のおすすめ名シーン ※ネタバレ注意
ここからはネタバレを含む内容です。
ネタバレを見たくない方は、ここまで読んだ段階で映画館に向かってください。
話の起点となる自転車爆走シーン
デート中に些細なこと(?)で喧嘩して、それを一人で後悔し、土砂降りの中を自転車で爆走して新の元へ向かうというこのお話の起点となるシーンがあります。
ここが本作の大きな見どころの一つ。
あまりにもスピードが出過ぎている、まさに"爆走"と呼ぶにふさわしい自転車捌きと、謎に入り組んだ道路、そして対向車との激突。
そのたくさんの情報が短い時間で流れ込んできて、おそらく多くのお客さんが困惑したことでしょう。
さらに困惑度を増すのが、何故か車に轢かれても無傷で、泥だけ付いた状態で澪が放つ一言。
「こんなんじゃ、新のところに行けないよ…」
土砂降りで雨に打たれてビチャビチャになった状態だったら、新のところに行っても問題ないという判断だったのでしょうか。
そもそもあなたはなんで無傷なんですか…?
誰が見てもわかる、澪が周りから見えていない伏線
主人公視点だと自分がそこにいるように表現されているけれど、周りからは声もかけられないし存在にも気付かれない、というよくある描写。
一番有名なところだと『となりのトトロ』のサツキとメイが実は死んでいて…みたいな説がわかりやすいでしょうか。
上手く使えば大きなどんでん返しを感じさせてくれる素晴らしい描写ですが、本作の描写はあまりにも不自然。
先ほどの交通事故で澪が無傷で立ち上がるのが違和感しかないし、その次の日に新が明らかに澪がいないことに落胆しているのが見て取れます。
最大の面白ポイントがネタ晴らし。
話のかなり後半の方で、実は澪が事故で幽体離脱してたよという事実がわかり、事故の次の日に澪と新が一緒にいると思っていたけど、実は新一人でしたという描写が入ります。
全てのお客さんが察しているのに、永遠に自分の状態に気付かない澪と、
「だまされた?」
みたいなドヤ顔が思わず浮かんでくるネタ晴らしの演出が、めちゃくちゃシュール。
突っ込みたくなる気持ちを抑えるのが非常に大変です。
交通事故で幽体離脱してしまった澪は、<世の境>というこの世とあの世の境目に飛ばされ、そこから出ようとする物語に続きます。
繰り返される同じ命題
<世の境>から出るためには、切符と、大切な思い出の中にある“忘れ物”と、帰りたい強い“想い”を伝えることが必要。
澪はギーモンと、謎の登場人物菊ちゃん共に、"忘れ物"と"想い"を探して、池袋を散策します。
キーマンとなってくるのが画像の忘れ物口係員。
全ての池袋駅員をバカにするような、酷い態度のこの係員に"忘れ物"を伝えると、何故か切符をくれるという、『千と千尋の神隠し』をオマージュしつつアレンジしたよくわからない設定。
忘れ物口係員に忘れ物を伝えたら切符がもらえるって、文字にすると違和感しかありません。
最初に訪れた時は"忘れ物"が伝えられなくて切符がもらえず、2回目に訪れると切符はもらえるんですが電車が途中で止まり、その後もなんだかんだ現世に帰れない時間が延々と続きます。
その度に澪は、
「心の底で現世に帰りたくないと思ってる。」
「"忘れ物"が見つかってない。」
という命題との戦いを何度も何度も強いられる。
この命題がフワフワしすぎているうえに、視聴者目線は解決しているように見える。
理由がわからなくてクリアしているはずのクエストがクリアできず、詰んでしまうゲームのような絶妙なイライラ感が心に気持ち良いです。
急に歌うよ、挿入歌「君に。」
ほぼ前後の文脈が無く、いきなり歌い始める挿入歌「君に。」。
『戦姫絶唱シンフォギア』も泣いて逃げ出す程、本当に脈絡がありません。
いきなりの挿入歌に驚いて、歌も歌詞もあまり入ってきませんでしたが、第一印象は率直な歌詞。
澪の気持ちや境遇をそのまま文字に起こしたまっすぐな、悪く言うと一切ひねりのない、設定に書かれている文字を羅列したような歌詞でした。
澪は昔、歌の発表会で緊張してしまい上手く歌えず、歌うことが嫌いになったという過去を持っています。
好意的に捉えると、この挿入歌を通して、過去の自分を克服したと考えることもできるのですが、この挿入歌が終わったタイミングでは一切何も解決しておらず、<世の境>から出ることも出来ませんでした。
唐突で、かつ意味の無い挿入歌は、見る人すべてを困惑の渦に叩き込みました。
行動の一貫性が一切ない敵キャラ・殯
<世の境>に来た人間は、基本的にそのままあの世に行くべき。
その規律を乱そうとする者を排除するのが、<世の境>を守る番人・殯です。
<世の境>に来たにも関わらず、現世に戻ろうとする澪を、『千と千尋の神隠し』の暴れるカオナシのごとく襲い続けます。
フォルムがカオナシそっくりという点や、何故か駅には入れないというよくわからない設定はさておき、自分のすべき任務を遂行する姿には特に違和感は抱きませんでした。
ところが後半。
何故か澪が現世に戻るためのアドバイスをしたり、優しく見守るお父さん的立場に立ったりする謎の人物になってしまいます。
確かに殯を倒すことのできるキャラクターがいないので、なあなあにするしか無いといえば無いのですが、それにしてもあまりの行動の一貫性の無さに登場する度笑ってしまいそうになりました。
現実を受け入れられない澪の大絶叫
本作最大の困惑ポイントが、幽体のまま現世に戻って来たけれど、身体に入ることはできないし、新に触れることも出来ない、
自分は死んでしまったんだという視聴者全員がわかっている現実に初めて気づいた時の、澪の大絶叫。
我々が普段アニメで聴いている絶叫は、あくまで演技。
本物の絶叫は"耳障り"であるべきなんです。
永遠に感じられるほど長く続く絶叫は、聴いていて頭が痛くなるような絶妙な高さの"耳障り"な音。
ああ、自分は今本物の絶叫を聴いているんだという、今まで感じたことがない独特な感動を覚えました。
BD・DVDや、テレビ放送では音量調整がされてしまうかもしれないので、ぜひこの感動を映画館で体験してください。
クライマックスに向けた新の大活躍
澪以外の友達がおらず、実は霊能力者の家系である新。
幽体離脱することで<世の境>に行った人を助け出す能力を持っていますが、幽体離脱は死と隣り合わせの危険な行為でもあり、そのせいで過去に家族でも大きなトラブルがありました。
急に白いモヤモヤした霊体のようなものが見えだしたり、発狂して倒れ、幽体離脱した挙句、澪を救い出せずに帰ってきたり、途中の異常行動も中々のものですが、終盤はしっかりとクライマックスに向けた展開を担います。
夜中、誰もいない病棟に潜り込み、交通事故で植物人間状態の澪を勝手に寒そうな崖連れ出した挙句、澪が冒頭に言っていた謎の言葉を真似し始めます。
「陸と空の間を地平線、海と空の間を水平線っていうけど、空と宇宙の間のことは何て呼べばいいんだろう、空平線?いや、それは空の彼方…」
一言一句あっているわけではありませんが大体こんな感じ。
既に言葉が意味不明なのに、それを真似するのも意味不明。
意味不明まみれのまま、話はクライマックスに。
このお話がどのような結末を迎えるのかは、ぜひその目でご確認ください。
おわりに
Z級映画としてのこの作品の魅力を、自分の稚拙な文章でお届けできているのか非常に心配でなりません。
この記事を読んで一人でも多くの方が、映画館に足を運んで、後にこの作品がテレビ放送される日が今から待ち遠しいです。
絶対この作品を実況でツッコみしながら見たい。
映画見てみたいと思った!
あまりの出来に感動した!
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今後もアニメに関する記事を毎日投稿していきますので、ぜひご覧ください。
また次の記事で!