咲坂伊緒さん。
『ストロボ・エッジ』、『アオハライド』など数多くの少女漫画で日本中のハートをきゅんきゅんさせた日本を代表する作家さんです。
青春三部作の最終章ということで、今までの作品で描いてきた"ピュア"と"リアル"二つの要素が絶妙に絡み合う恋愛模様。
見たら絶対恋したくなること請け合い、まさかの挿入歌も流れてボロボロ泣いてしまった名作『思い、思われ、ふり、ふられ』について語っていきたいと思います。
『思い、思われ、ふり、ふられ』とは
アニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』予告【2020.9.18(金)公開】
©2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 ©咲坂伊緒/集英社
あらすじ
全員片思い ―あの子が好きな君を、好きでいてもいい?―
偶然出会った、全くタイプの違う【朱里】と【由奈】、朱里の義理の弟の【理央】と由奈の幼馴染の【和臣】は、同じマンションに住み、同じ学校に通う高校1年生。夢見がちで恋愛に消極的な由奈は、理央に憧れるが、自分に自信がなく一歩踏み出せずにいる。
理央はかつて朱里に想いを寄せていたが、親同士の再婚により、気持ちを告げられないまま、想いを胸のうちに抱えていた。
また、恋愛に対して現実的な朱里は、率直でどこかつかみどころない和臣のことが気になり出し、割り切れない初めての感情に戸惑う。
そして和臣は、ある“秘密”を目撃し、葛藤を抱えることになり…。
それぞれの思いは複雑に絡み合い、相手を思えば思うほどすれ違って−。
スタッフ
原作:咲坂伊緒『思い、思われ、ふり、ふられ』(集英社、マーガレットコミックス刊)
監督:黒柳トシマサ『好きっていいなよ。』『少年ハリウッド』『舟を編む』
脚本:吉田恵里香『TIGER & BUNNY』『刀剣乱舞-花丸-』『神之塔 -Tower of God-』
音楽:野見祐二『王立宇宙軍 オネアミスの翼』『猫の恩返し』『日常』
キャラクターデザイン:山下祐『うさぎドロップ』『終末のイゼッタ』
美術監督:平間由香
色彩設計:安部なぎさ
CGディレクター:野間裕介
撮影監督:岡﨑正春
編集:三嶋章紀
音響監督:長崎行男
アニメーション制作:A-1 Pictures
製作:アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会
キャスト
山本朱里:潘めぐみ
市原由奈:鈴木毬花
山本理央:島﨑信長
乾 和臣:斉藤壮馬
ピックアップポイント
朱里と由奈の全然違う恋愛への価値観
©2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 ©咲坂伊緒/集英社
本作の最大の特徴と言えばやはりWヒロイン制度。
少女漫画が大好きでピュア、運命の王子様が現れるのを待っている、恋愛に消極的な由奈。
サバサバした性格でリアリスト、空気は読めるし、フラれても傷付いていないように見える無敵さを持ち、恋愛に積極的な朱里。
恋愛に対して正反対の価値観を持っている二人がたまたま同じマンションで出会い、友達になっていきます。
きっと人間だれしもが由奈のような乙女の気持ちと、朱里のような現実を見据える気持ちを持っているはず。
だからこそどちらのキャラクターにも物凄く感情移入してしまいます。
序盤は恋愛に疎い由奈が朱里を追いかけるような構図ですが、終盤にはそれが逆転するのも本作の面白いところです。
いわれのない噂
©2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 ©咲坂伊緒/集英社
朱里が彼女持ちの男に手を出している。
学校でその噂を耳にしてしまった由奈は、前の彼氏ともきっぱり別れ、しかも一切辛い様子を見せなかった朱里に対して強い嫌悪感を抱きます。
きっと既に次の人が決まっているからこそ、朱里は全然辛くなかったんだろう。
恋愛とは運命的な出会いによって成立し、一途な想いを抱き続けることなんだと思っている由奈にとっては絶対に相容れない価値観です。
ところが実際のところ、朱里はその男を全力で拒否していて、前の彼氏と別れた悲しみも誰もいないところで一人泣いて苦しんで、元気な素振りを由奈の前でしているだけでした。
苦しむのは自分だけで良い、周りに気が配れて誰よりも空気を読んでしまう朱里の大人っぽい人間性が垣間見えます。
由奈はそんないわれのない噂を信じて、朱里に対する負の感情を抱いてしまったことを猛反省。
朱里に因縁をつけていた"噂されていた男の彼女"に直談判しに行きます。
自分も噂を信じてしまったことを朱里に謝るから、あなたも朱里に謝って欲しいと。
普通の人であればここまではきっとできません。
正しいと思うことを曲げず、空気を読むことよりも自分の感情を大事にする由奈だからこその行動はとても強く心に響きました。
そんな由奈だから、きっと朱里も大切な友達だと思えるのでしょう。
この事件を通して由奈と朱里の強い絆が育まれました。
勉強会
©2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 ©咲坂伊緒/集英社
朱里、由奈、理央、和臣の4人は山本家で勉強会をすることになりました。
ここでは大きく二つの事件が勃発します。
一つは"告白しない"と"告白できない"の問題。
部屋で二人きりになった由奈と理央の話題は恋バナに。
フラれることがわかっているから好きな人には告白できないと、由奈はまさに自分の好きな人である理央にその想いを告げます。
ところが理央は、それは告白できないではなく、告白しないだけだと反論します。
理央が告白してしまうと、秩序が乱れてしまうから。
もう一つは朱里のお母さんが部屋に飛び込んできた事件。
朱里のお母さんは、朱里と理央が二人きりで部屋にいると思い、部屋に飛び込んできてそこを朱里に目撃されてしまいます。
実は血の繋がっていない姉弟である朱里と理央の関係をお母さんは非常に心配していました。
この二つの事件によって、理央が"秩序が乱れてしまうから告白しない"ということは、理央の好きな人が朱里であると由奈は感付いてしまいます。
姉弟であるが故に告白できないという設定はそこまで珍しいものではないですが、理央が告白しようと思った日に再婚の話が進んだこと、家族の形を守るために気持ちを抑えなければならないことを想うと本当に胸が痛みました。
高架下での告白
©2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 ©咲坂伊緒/集英社
本作で何度かある告白のシーンですが、やはり非常に印象的だったのは高架下での告白。
理央の好きな人は朱里。
絶対に成功しないとわかっていながらも、自分の気持ちを引きずらないために由奈は理央に思いの丈を話します。
そして最後に付け加える一言。
「私をふって。」
雨の降る平凡な街中の高架下での、シチュエーションも何もあったものではない告白。
それでも由奈の一大決心が込められ、由奈の中では晴れ渡るような青空と一面に広がる花畑になる演出は、由奈の気高く美しい気持ちが痛いほど伝わってきました。
告白はもちろん失敗し、それぞれ雨に打たれて帰る由奈と理央。
それを慰める朱里と和臣という組み合わせも非常にエモーショナルでした。
朱里と理央の和解
考えれば考える程、理央から朱里への気持ちは止まらない。
夏祭り前のある日、理央は朱里にキスをします。
激昂した朱里は理央に平手をし逃げ出す。
理央は自分の取った行動を深く反省しながらも、この抑えられない気持ちをどうすればいいか葛藤を続けていました。
ところが、とある出来事をきっかけに、理央が朱里に告白しようとしたあの日、朱里が理央のために、家族の形を守るために、嘘をついていたことを知ります。
誰かを傷付けるためではなく、誰かを守るための優しい嘘。
理央は改めて、朱里にきちんと謝ります。
「ノリであんなことして本当にごめん。」
理央から朱里へのキスはもちろんノリなんて軽い気持ちではありません。
それでも、家族の形を守るため、理央が付いたもう一つの優しい嘘は切ない気持ちもありながら、家族愛を感じる暖かな気持ちが詰まっていました。
屋上での告白
©2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 ©咲坂伊緒/集英社
由奈の幼馴染であり、理央の友達でもあり、朱里の話をしっかりと聴いてくれる和臣。
応募した映画コンクールで思ったような結果が出ず落ち込んでいる和臣と朱里は、いつ付き合い始めてもおかしくない、お互い内心好き合っていることがわかる状態でした。
屋上でのお互いを想い合う会話や、一気に距離が近づくイベントもあって朱里は和臣に対して変な告白をします。
「私たち付き合わない?私のこと好きだよね?」
この告白のリアリティには思わず自分も身悶えしました。
告白する前のお互いの気持ちがわかっているのに、一歩踏み出せないあの感じ。
恋愛関係に進むのが人より早い朱里だからこそ出てきた言葉ですが、実際好きですというより告白よりもこういう告白の方が非常にリアリティを感じます。
これを物語の中でやるというのがやはり、リアリティを追求する咲坂伊緒さんのシナリオ作り。
ところが意外なことに、和臣はこの告白を断ります。
実は和臣は理央と朱里がキスしているところを目撃してしまっていたのです。
ああ、切ない…
既にそのキスの件は解決しているというのに…
映画の仕事で京都の大学に行くことになったり、遠距離恋愛はお互いを幸せにしないと相手を想うからこその気持ちがあったりで、二人は長い間、関係に距離を置くことになるのです。
「リボン」
文化祭、圧倒的な告白ブームが学校に吹き荒れます。
由奈のことを好きになってしまった理央の友達・暖人も文化祭で告白するつもりだと理央に打ち明けていました。
いざ由奈が誰かのものになってしまうと思うと理央も気が気ではありません。
文化祭で王子様のコスプレをしていた理央は改めて由奈の屈託のない笑顔と優しい人柄に触れ、この気持ちが恋愛感情だということを思い知ります。
理央は改めて暖人に自分も由奈が好きだという気持ちを伝えましたが、暖人も自分の気持ちを伝えたいと由奈に告白をするのでした。
そして由奈も、文化祭当日にもう一度理央に告白しようと心に誓っていました。
暖人の告白を断り、理央を探す由奈。
今まで心の奥底に隠していた由奈への気持ちを伝えるため、由奈を探す理央。
その二人の背中を押すように流れるのは、
「リボン」/ BUMP OF CHICKEN
新曲「Gravity」が主題歌として使われることは事前に知っていましたが、「リボン」が流れるのはどこにも公開されていない情報。
イントロが流れ出した途端、僕を含め多くのファンが息をのんだ音が聴こえました。
最初は恋愛にあんなに後ろ向きだった由奈は素敵な女性になり、由奈へのまっすぐな気持ちを持った理央は由奈が憧れ続けていた王子様。
考えうる限りで最も最高なシチュエーションでの告白と、リボンの歌詞に大粒の涙がボロボロこぼれました。
意地や恥ずかしさに負けないで
心で正面から向き合えるよ
出典:「リボン」/ BUMP OF CHICKEN
ここの歌詞は本作とも非常に強くリンクしていました。
元々、BUMP OF CHICKENの20周年の集大成として生まれた楽曲で思い入れもひとしおでしたが、今回のこの挿入歌でもっともっと大好きな楽曲になりました。
シャボン玉の演出や、真っ赤な非常階段を駆け上がり、駆け降りるカメラワーク、全てにおいて百点満点の本当に最高な告白シーンでした。
家族関係
素敵な恋人関係になった理央と由奈。
由奈の家は家族関係も非常に良好です。
再婚した両親が喧嘩続きになっている山本家では、理央は家にできるだけいないようにし、一緒にご飯を食べたのがいつだったのかも思い出せないほど遠い昔の話。
このままではいけないと朱里はクリスマスの夜、家族のためにカレーを作ろうとしました。
ところが帰ってきた両親は既に口喧嘩中。
「朱里たちがいなければとっくに別れてるのに!」
と、母は朱里がいないと思って禁断の一言を口にしてしまいます。
あまりのショックに朱里は家を飛び出しました。
そんな朱里が飛び出した先で出会ったのはずっと距離を置いていた和臣。
和臣は理央が好きな朱里を好きになってはいけないと気持ちを抑え、
朱里は映画制作に真剣な和臣の邪魔になってはいけないと気持ちを抑えていました。
お互いのことを想っているからこそ、お互いに干渉できない非常に切ない関係性です。
それでも二人は、雪が降り積もる街を見下ろせる思い出の場所で、お互いの気持ちを打ち明け合い、手を取り合って前に進むことを誓ったのでした。
家に帰ると、反省した様子の両親と自分の行いも改めようと考えている理央が。
お互い内心に想っているだけではなく、しっかりと言葉を相手に伝えることの大切さを強く感じる最後の大きな出来事でした。
カレーを作るつもりで買ってきた材料で理央が肉じゃがを作っていたのはまさに、言葉を相手に伝える大切さをコミカルに描いた描写でした。
最後のプレゼント
冒頭では窓越しに顔を出す和臣に朱里がときめく描写がありましたが、最後に窓から顔をのぞかせたのは理央。
憧れの王子様が現れてブレスレットのプレゼントと、手の甲へのキス。
由奈が追い求め続けた理想の男性がそこには居て、恥ずかしがる理央もまたたまらない。
二組のカップルが幸せに包まれたこれ以上のハッピーエンドがあるのかというほどの圧倒的なハッピーエンドは、思わず恋をしたくなってしまう最高のフィナーレでした。
「Gravity」
BUMP OF CHICKEN 「Gravity」アニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』スペシャルMV
エンディングを飾るのはBUMP OF CHICKENの新曲、「Gravity」。
咲坂伊緒さんの作品と共に人生を歩んできた世代の我々にぴったりで、その甘酸っぱさが十二分に感じられる楽曲です。
歌詞は普遍的な内容でありながら、この作品を見た人にはしっかりと伝わる作品に寄り添ったフレーズがふんだんに使われています。
大人っぽく振る舞ったり 尖ってみせたり
刺さったときに誤魔化して 変な感じになったり
そういうの まとめて愛せるくらいに
僕らは僕らを信じられていた
出典:「Gravity」/ BUMP OF CHICKEN
こことかは、まさに和臣と朱里の関係性。
聞けば聞くほど、愛しい人への想いが溢れたこの楽曲は、聴くたびに『思い、思われ、ふり、ふられ』を思い出し、幸せな気持ちで包んでくれることでしょう。
おわりに
いくつになっても私たちの心をときめかせてくれる少女漫画。
少女漫画が好きで色々な作品に触れていればいる程、由奈の一つ一つの感情に強く共感してしまうことでしょう。
この作品を見るだけで気持ちが青春のあの頃に戻ること間違いなし。
自分も伝えたい想いをしっかりと周りに伝えて、最高に幸せだと胸を張って誇れるような、そんな人生を歩みたいなと思いました。
めちゃくちゃキュンキュンした!
BUMPの「リボン」めちゃくちゃびっくりした!
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また次の記事で!